18. K-ing

 細かく刻まれるハイハットの音とハンドクラップ、シンセ、ギターそれらが楽曲の上を流れ、下を支えるのはヒップホップのBPMよろしくなバスドラとそれと同期するかのようなベース音。そして全ての中音域を占めるのが中村一義のヴォーカルだ。ラップなんていう言葉は使いたく無いが、曲の大半が、ファルセットを駆使した畳み掛ける言葉の連続を唄うことで占められている。これまた異質な曲。コード進行を捻り捻る彼等の手法とはまた一変して、淡々と続く楽曲構成。でも詰め込まれた言葉達には今までの中村一義にはない様々な想いが詰め込まれている。そう言った意味でもとても奇妙な曲だ。
 というか、もうここまで異質だとか奇妙だとか言い続ければもうみんなもわかるであろう。この『OZ』というアルバムは全ての楽曲といっても過言では無いほどに、既存のロック、ポップスの方法論で創り上げた楽曲が皆無に等しいのだ。100sという6人のメンバーが音楽家集団という名目で、さらなる音楽的作品を創り上げ、高みに達したいというハードルを作ったが故に産まれ出た新たなミュージックである。そんな『OZ』というアルバムを創るにあたって、最初に中村一義の脳裏に浮かんだ楽曲がこの「K-ing」。100sのメンバーとニューヨークに旅に出た時に生まれでた楽曲であるという。
 マーチン・ルーサー・キング・ジュニア。ブックレットの写真に写っているのはマーチン・ルーサー・キング・ジュニアのペーパーバックである。マーチン・ルーサー・キング・ジュニア。60年代の渾沌としたアメリカにおいて、人種差別に対して「暴力には魂の力で応えるのだ」と生命を賭けて生き抜いた人物。いや黒人である彼は、人種差別という目に見える世界の矛盾だけにとどまらず、その差別が存在しているのに自由と平等の国と叫ぶアメリカ合衆国に対して有名な「I Have A Dream」という演説などで「白人に対する黒人の勝利でなく、すべての人の自由と平等という勝利が白人と黒人がともに見るアメリカの夢」などの言葉を後世に残している。
 そんな彼の意をどれだけ楽曲に落とし込んだかのかは計り知れないことだが。

 “「“Dreams”is in it。」”
 “「“Real”is in it。」”

 フルクサス。ジョン&ヨーコの言葉遊び。シンプルな言葉を解き放ち、全ては受け手の感情に委ねるという行為。そんな歌詞さえも登場する。そして。

 “スライ、スタックス”
 “ワン・オブ・シックスティーズ”

 明らかにその時代性へのオマージュが含まれている。しかし。

 “「Music is all to my hands on the earth」”

 ということだ。この緻密に構成されていながらも、音が入り込む隙間があるこの楽曲に、様々な時代に刻まれた音楽を、過去未来関係なく、注ぎ込むことができるだろうということを表現しているような気がしてならない。かなりの妄想かもしれないが。

 “「アース、ボーイズ、スターズ、ガールズ」”

 この言葉の想い、願いを受け取ると、さらにそのような妄想が広がる。ある時の一点を刻んだ音、声。それらを集約してこの楽曲を完成させた。しかしこの楽曲も、時が経てばある一点の作品として後世に続く。それを踏まえた上での楽曲構成なのではなかろうか。

 アウト。