10. やさしいライオン
100sが100sとして、新人バンドとしてデビューしました!というものを僕らに突き付けた100sの1stシングル「A」のカップリングとして収録されていた「やさしいライオン」。作詞:中村一義、作曲:山口寛雄&100sというクレジットを見てもらえればわかるように、100sとして活動をはじめた彼等の作品にはじめて触れて、最初に僕らの耳に飛び込んで来た、中村一義による詩曲ではない楽曲であった。今までの中村一義による詩曲を聴き続けて来た輩にはあまりにもシンプルで、あまりにもポップなメロディーに度胆を抜かれた人もいるはず。しかし、改めて『OZ』というアルバムに収録されたことによって、この曲が際立って名曲の部類に入るかも知れないと感じた人は多いのでは無いだろうか。
様々なメディアで既に中村一義本人が発言しているように、この曲は、山口寛雄の母が亡くなられたのをきっかけに創り上げられた楽曲である。あまり表立って自分の内面を開こうとしない彼の心の奥に潜む哀しみを100s全員が背を押し、メロディーとして浮き上がらせて、そこに中村一義が歌詞を載せた。やなせたかし作の名作絵本『やさしいライオン』をモチーフにして。しかし、とても哀しい唄だ。『やさしいライオン』という絵本自体も子供に見せていいものなのか?と思ってしまうほどとても絶望的な内容だ。でもその絶望の闇に潜む暖かさがとても心に染み入る。
山口寛雄だけではなく、100sのメンバーみんながこの『OZ』の制作前、制作過程において様々な不幸な出来事や災難に襲われたという。その経験によって死というものは生きている以上常に自分の側に寄り添っているものだというものを感じたに違い無いと、僕は思うのだ。僕らだって今、テレビを付けてニュースを見れば様々な死を報じている出来事に遭遇する。それからリアリティーを感じることが出来るかどうかは君次第だけれど。
生きるということは死を受け入れるということだ。この『OZ』3部作の第2部に当たる最大のテーマは死であるのではないかと。死というものが、死んでしまったものが存在しているあっちのほうから音を鳴らそうとしているのでは無いかと。それを咀嚼して楽曲を創り集約しているのではないかと。そして、一貫してそれを第2部が終わるまで通低音として聴き手に突き付けているのではないかと。そう僕は暴言を吐かせてもらう。