6. 流れるものに-ALBUM ver.-(対 ベートーベン交響曲第六番「田園」)

 『対音楽』収録楽曲の中でも群を抜く、爽快かつ軽快な最高のポップチューン。前曲『運命』の重厚な音作りを一蹴するかのような、佇まい。ベートーベン交響曲第六番「田園」が醸し出す、人々の日々の営みの多幸感から多大に感化されたであろう軽妙なトラックだ。

 中村一義は、個人名義の創作活動の歴史の後に、100sというバンドを結成し新たな軌跡を歩んできた。その中で彼は、ライブパフォーマンスというアーティストにとって欠かせない経験値を得た。その熱い磁場が目に浮かぶように、サビのフレーズで思わずハンドクラップを誘われてしまいそうなテンポが心地よい。100s名義のアルバム『OZ』収録の「いきるもの」、『ALL!!!!!!』収録の「そうさ世界は」、『フラワーロード』収録の「いぬのきもち」に通じるアップテンポなナンバーだ。しかし、この、『流れるものに』は、その上をさらに行く。曲の後半部分に転調し、空高く突き抜けんとする楽曲構成に、心も身体も否応無しに音楽の高揚感と共に、鼓舞されてしまう。この突き抜けた感は、個人名義の2ndアルバム『太陽』収録の「そこへゆけ」を初めて耳にした時と同じような驚愕的な突出を魅せている。

 そんな中、歌われる歌詞は、至ってシンプル。

 “ほら、君がいて僕がいる。本当はそれで十分なのに。”

 本当にシンプル。十分すぎるくらいシンプル。だけど、このシンプルさを、巷に溢れた、使い古された、簡略な言葉として感じるだけで終わらせない魔法がこの楽曲にはある。曲中に、“宇宙”という言葉も現れてくる。“世界”という言葉も現れてくる。そんな中に君と僕がいるということである。いったい何が言いたいのかというと、ここにも様々な「対〜」があるっていうことだ。目に見える世界。見えるようで見えない宇宙。知っているようで知らない僕と君。僕の宇宙と、君の世界。などなど…。相対するものが、様々なに交錯し、ひとつの音楽に溶け合って、シンプルに鳴り響く。

 故に、深く、深く、心の中へ…。

 シンプルで、単純で、幼稚であるからこそ、とても大切な想いが刻まれていくのである。

 

7. 銀河鉄道より(対 ベートーベン交響曲第七番)