5. 運命-ALBUM ver.-(対 ベートーベン交響曲第五番「運命」)

 『おまじない』のフェードアウトからフェードインする形で流れ出す、『運命』。先行シングル『運命/ウソを暴け!』として既に耳にしている楽曲であるのだが、このアルバムの中核に流れ出してはじめて、この曲の異質さに驚愕した。はっきり言って、僕はベートーベンを詳しく知らない。でも、誰もが知っているベートーベンの『運命』のフレーズが印象的に使われていることは、わかる。わかっていた。しかし、先の『おまじない』のレビューで記したことにも通じること。とにかく、歌詞が、凄い。敢えて微妙な言葉を使わせて貰えれば、異質、で、奇妙、で、キテレツ、だ。

 この歌の象徴となっているのは、缶コーラだ。そのコーラが何かを表していて、その動き、その流れによって自らの感情が右往左往する様が描かれている。きっと、彼の個人的な日常で出くわした情景なのだろう。それに、彼が描き出したファンタジーが錯綜して出来上がったものがこの『運命』の歌詞なのだろうと思う。解釈の仕方によっては如何様にも捉えられるが、とにかく、掴むことが難しい抽象的な歌詞である。しかし、サビの部分で一貫しているのは、“思い出せ!”、“想い出せ!”ということだ。この感情が溢れんばかりに飛び散っている。ようは、それが全てであり、それに至る過程をリアルとファンタジーを混在させた歌詞にて構築しているのだ。

 『対音楽』というこのアルバムの中で、中村一義が、様々な「対〜」というものと対峙しているであろうと解釈すると、この楽曲では、「対リアル」、「対ファンタジー」という。そもそも、「リアル vs ファンタジー」という対立構造が成り立っている要素を敢えて一つの楽曲に混在させて、対峙していると感じる。これは、この『運命』だけに限らない。『ウソを暴け!』だってそうだ。「嘘 vs 真実」という対立構造が練り込まれているし。他の楽曲もそうである。

 結局のところ彼は、『対音楽』という命題を掲げた時点で、決して相容れない生き物をタイトルに掲げ、相対する要素を対立する構造とし、はたまた融合するものでもあるとし創り上げたデビュー曲、『犬と猫』さえもこの作品の中に注入してしまったということなのだろう。だって、ベートーベンまで行き着いて、それをコンセプトとしているのだから。彼が今まで生きてきた全ての音楽を取り込んだということだ。それは、イコール、彼の人生そのものであるということだ。

 それが、『運命』だということなのだろうか…。

 ならば、『運命』とはそもそも何なのだろうか……。

 

6. 流れるものに-ALBUM ver.-(対 ベートーベン交響曲第六番「田園」)