4. おまじない(対 ベートーベン交響曲第四番)煌めく電子音が飛び交う。絶妙に間を刻むギター。ハウスミュージックのマナーにも沿うようなビート。そこを浮遊する、中村一義特有のファルセット。間奏やそこかしこに顔を出すベートーベンの旋律。特筆べき点は、“なりてぇものになりたいのなら”という歌詞のリフレイン。さらに、サビの裏で密かに歌われる、“R・O・C・K・&・R・O・L・L”というキーワード。そして、“光る”、“鳴らす”、“駆ける”、と歌われるこの楽曲は、聴き手のあなたの背中を押し出す1曲となっている。
このような、聴き手を鼓舞するような楽曲をリリースするようになったのも、彼が個という孤独な存在から音楽をはじめて、世界を知り、社会を知り、あなたという人がいるということに気付き、時代の潮流を受けて生きていく必然性を得ることが出来たからである。今回、『対音楽』という命題で創作をしていく中で、そのような意志をどこかで表現することを意図していたと思う。それがこの『おまじない』ではなかろうか。例えば、3rdアルバム『ERA』収録の「ショートホープ」然り、100s名義のアルバム『OZ』収録の「扉の向こう」然り、だ。楽曲の成り立ちは違えども、僕らをアップリフトさせる力を持っているというところでは、共通する部分である。
中村一義というアーティストの凄いところは無数にあるのだが、その中でも、鳴り響く音楽の中に綴られる歌詞使いの絶妙さが特筆すべきところである。昔からのリスナーであれば、いまさら言うまでも無いが、彼の日本語詩の韻の踏み方は、デビュー当時、既に、発明であった。日本のロックを塗り替えたのである。デビューして15年というと長く感じるが、その出来事は、1997年の出来事である。ざっくりと日本におけるロックの歴史が1970年前後から始まったとしても、彼が現れるまで、約27年の月日が流れていたのだ。その間様々なアーティストが日本のロックを築いてきたが、欧米発のロックに引けを取らないリリック使いを産み出すことを可能にしたのは後にも先にも彼しかいない。まさにデビューして『金字塔』を築き上げたということになるのだ。
そして今作の『対音楽』は、明らかにその系譜に連なるものであるのは事実で、「対金字塔」ということさえも飲み込んで創作したものであるのだろうと、思うのである。