DJ保坂壮彦 MIX CD『ALL IS LOVE IS ALL』

セルフライナーノーツ

 


- 01 キャノンボール / 中村一義

 アルバムタイトル、いや、このブログのタイトルや保坂のオフィシャルサイトの名称である『ALL IS LOVE IS ALL』を表するにあたって、絶対的に欠かせない楽曲。「愛」という普遍的かつ壮大なテーマを題材にすること。それは人間に巻き起こる全ての感情をを背負う宣言でもある。“そこで愛が待つ故に”と繰り返されるリフレインに、呼応するように、“僕は行く”“立ち止まる”“僕は往く”と紡がれる歌詞。
 今回の作品を作るにあたって、この楽曲がなければ、何もかもが始まらなかった。それも1曲目に鳴り響かなければ意味が無かった…。そんな思いが詰め込まれたトラックです。


- 02 MUSIC BY. / Riddim Saunter

 「キャノンボール」にディレイをかけて、始まる、音楽の、ミュージックの、Music。ようは、音楽というものの号砲となるトラック。惜しくも解散してしまったアーティストではあるが、音楽は決して消え去らない。DJたるものに課せられた使命は、残された名曲達を伝え続けるということ。それを背負って、鳴らすことだ。
 ダンスミュージックとして、オーディエンスを鼓舞するハンドクラップと、絶妙なメロディとビートに乗っかった英語詞の秀逸さは、彼等にしか成し得なかった。


- 03 虹. / 斉藤和義

 「Music By.」終わりにエフェクトをかけて、彼が弾き語る、ギターの弦、6本全てが力強く鳴り響くイントロを繋げた。
 ほぼ全ての楽器を演奏する彼ならではの揺らぐグルーヴ感が最高なトラック。2011年。「3.11」。その事実に真っ向から反旗を振るった彼のアーティストとしての立ち位置は、今に始まったことではない。この楽曲に込められたテーマだって、痺れるくらい、今に響き渡る。


- 04 JUST BE COOL / THE BAWDIES

 「虹」のシャッフルビートに続けとばかりに、BPMをかなり上げてグッド・ヴァイブレイション・ロックンロールを…。
 彼等は、デビュー時の衝撃と勢いに乗っかって、初期衝動と欧米のソウルミュージックの模倣だけで突き進むのではなく、メロディという武器を得て、更なる飛躍を遂げている。それは、普遍的な邦楽のポップミュージックにも通用するナンバーをここ最近ドロップしてきているということだ。そんな中、単なる激しいトラックではなく、あらゆる音楽にバトンを渡せるような、それでいて、彼等でしか鳴らせないロックンロールを、セレクトさせて頂きました。


- 05 やっぱ音楽は素晴らしい feat. RHYMESTER / SCOOBIE DO

 THE BAWDIESのシャッフルビートと絡みつくように、RHYMESTERのリリックとSCOOBIE DOのファンキーブレイクビーツのコラボレーションが秀逸なトラックをドッキング。楽曲のグルーヴ感もさることながら、タイトルが表しているように、この歌のメッセージは、とっても、キテる。すげぇ、キレている。「音楽とは何か?」というものを、真摯な言葉で伝え、軽快なトラックで奏でている。是非とも耳を澄まして聴いて欲しい。是非とも身体を揺らして感じて欲しい。そうすれば伝わる。これこそが、ファンクミュージックの王道であることが。


- 06 I Hate DISCOOOOOOO!!! / the telephones

 「やっぱ音楽は素晴らしい」のブリッジ。そのドラムフィルから突然、どすんとビートが落ちて、の、このトラック。しかし、言わずもがな、イントロが終われば、もうそこには彼等の専売特許とも言える、高速ビートの、ハイパーチューンが流れ出す。「Hate」という言葉が素晴らしい。好きも嫌いも表裏一体なのだから。そんな対なる感情さえも、愛というものは包み込み、僕らを混乱させて、興奮させるものだから。
 感情は言葉だけで揺るがされるものではない。ただひたすらに音楽に身を委ね、踊り明かしてこそ、全身に響き渡ることも必要だということを彼等は、常に聴き手に突き出すアーティストである。


- 07 半径30cmの中を知らない / アルカラ

 イントロ一発の衝撃度がやばい。the telephonesの昇竜するギターからの繋がりの衝撃度が強いトラック。音圧の高さ。L→R、R←Lに振られるギター音が鳴り響いた後のメロディラインと声色の透明度も、新人バンド離れした形相を魅せている。ブレイクに入って、テンポダウンして。どこで次なる楽曲にどう繋げ行くか。かなり試行錯誤したが、奇跡的なドラムフィルの複雑怪奇な繋ぎが可能になって、名曲へなだれ込む…。


- 08 VIBES BY VIBES / 10-FEET

 斉藤和義の楽曲もそうだが、どうあがいても逃れられない、2011年の出来事。「3.11」。それを体感した僕らは、何をすればいいのか。何が出来るのか。様々な場面で考えさせられることが多々あった。今の今でもそうだし、これから何年もずっとそのことは考えさせられ続けなければならない。
 そんな時に、心を鷲掴みにされる楽曲というものは、聴き手をアップリフトさせつづけ、生と死の喜びと悲しみを、一貫して伝え続けて来たアーティストなのである。それが、10-FEETであり、このトラックであり、彼らの存在意義なのだと改めて納得させられるのだ。


- 09 観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは / The Mirraz

 高速ビート。高速リリック。ひたすら世間に唾を吐きまくり、猪突猛進で走り続けてきた彼等が、ロックンロールの根本を見つめ直し、辿り着いた、ラブソング。そう、ロックンロールとはラブソングなのだということ。これは、世の中がどうあれこうあれ、僕と君の間に巻き起こる様々な感情が交錯することが、結果的に、世界を揺るがす視点をもたらすということ。世界を揺るがす音楽になるということの証明だ。
 孤独だ。なんて孤独なんだ。そんな哀しみが溢れた2011年に敢えて、軽快なロックンロールを鳴らす決意をした彼等の、ネクストステージに向けた、最高のラブソングである。


- 10 これはもう青春じゃないか / THEラブ人間

  「観覧車〜」から一気にビートダウン。楽曲の構造が違えども、ラブソングという繋がりとして、リンクするトラック。いつの時代も希薄、軽薄なラブソングが売れるという、普遍的なポップミュージック市場において、羞恥心なんか二の次に、外連味のない、究極的、個人的恋愛風景を開陳する彼等の姿勢は素晴らしき。
 ブレイクの時点でリフレインされる、「これはもう青春じゃないか」という部分をテンポアップさせて、次なる曲へ誘なってみました。


- 11 YOU&I / 竹内電気

 タイトルが示す言葉がもうそのままである。君と僕が織りなすストーリーだ。このMIX CDを作成するにあたって、様々なリスナーに届けるという視点を持ちながらも、個:保坂壮彦と、個:あなた、へ、届けたいという気持ちも忘れずに伝えたいという思いを込めて、選曲させてもらいました。


- 12 It's so GOOD / アシガルユース

 人を見た目で判断するのはいけない!ということを逆手にとって、僕らは見た目で勝負だ!と表現しつつも、彼等が歌うメロディーはその見た目が邪魔になるほどのグッドミュージックなのであるという、堂々巡りの矛盾。この矛盾が最高なバンドの、最強のポップチューン。
 前曲の竹内電機とも様々な場所でライブを重ねているからこそであろうか。そこで何かしらのシンパシーを互いに分かち合っているからだろうか。この2曲はとっても穏やかに、柔らかに、繋げることが出来たのです。


- 13 光のたてがみ (Album ver.)/ SEBASTIAN X

 このMIX CDを創るにあたって、音楽を聴くこととは?音楽を奏でるとは?音楽とは何か?というものを、音楽で届けることを可能にするのに、絶対的に欠かせなかった楽曲。その本質に真摯に向かって鳴らすことを可能にした楽曲である。
 目に見えない感情や心を届けようとすること。カタチあるものに縛り付けられずに、音楽で解放される素晴らしさとはこういうことなんだよ!ということを、穏やかに、煌びやかに、光をテーマに表現した、最高のポップミュージックである。


- 14 Kill your idol / KING BROTHERS

 酸いも甘いも知り尽くした彼等が8年振りにメジャー復帰。その1発目に届けられた楽曲がこれ。インディーだろうが、メジャーだろうがそんなのどうでもいい世の中になってしまったが、当然の如く、メジャーシーンで放つ数々のロックロールの広がりは、インディーよりも広しなのは明らかだ。それを逆手にとって、いや、相も変わらず、「これこそがロックンロールだぜ!」という、証をより万人に突き刺すことを意図的だろうがなんだろうが、とにもかくにも強烈に放つっている。リスナーにロックンロールとはなんたるか?を説き伏せるかのように鳴らしまくっている、痛烈なトラックだ。
 ここから始まる、このアルバムのロックンロールモードの号砲として収録。


- 15 FOOL GROOVE / YOUR SONG IS GOOD × BEAT CRUSADERS

 ユアソンとのコラボではあるが、そのケミストリーが功を奏したかどうかはもうどうでもいいほどの、ビークル史上、1、2を争う、最高のロックンロールポップチューン。必ずといって良いほど、この楽曲を僕はDJでスピンし続けている。他にも沢山、伝え続けている楽曲はあるが、この楽曲のイントロから始まる全てのクオリティの高さが、僕にこの曲をスピンさせることになっているのだ。
 どんな状況であれ、イントロドン!で、すでにこの楽曲の世界に入り込める、強烈なナンバー。それをもっと強烈に打ち付けたく、「Kill your idol」で歌われるリリックの後に、ぶち込んだわけなのです。


- 16 For divers area / Dragon Ash

 ロックアンセムというものはこうあるべしと言ってしまってもいいくらいの、最強のミュージック。音楽を全身で、肉体的に体感し、思考を遠くに追いやって、ただひたすら浴びる。そして、踊る、叫ぶ、暴れる。音楽は自由だ。音楽が鳴っているその瞬間だけは、なんでも許される。そんな多幸感を存分に堪能出来るナンバー。
 前曲、「FOOL GROOVE」のグルーヴ感を損なうことなく、さらに強力な流れになるように繋ぎ込みました。


- 17 風吹けば恋 / チャットモンチー

 2011年に巻き起こった様々な哀しみを振り返って、僕らにとって今必要なのは、何かを思うこと。何かを祈ること。何か行動を起こすことだと思う。そのきっかけをこのアルバムで表現したく、この楽曲をセレクトしました。彼女達が伝えるメッセージ。「行け!」というフレーズ。この一言がこのアルバムを創り上げるのに必要不可欠であったのです。さらに、どうあれなんであれ、人は人。私は私。というリリックの秀逸さを改めて握り締めて欲しいのです。
 千差万別。色んなことがあった2011年だけど、絶対に失ってはけない自分というもの。そして、とにかく歩みを進めること。それを、今、改めて実感してもらいんです。この「風吹けば恋」で。


- 18 ジェットにんぢん 2010 / GO!GO!7188

 デビューから10年を超えるキャリアを積み重ねてきた彼等だが、この楽曲が当時リリースされた時の衝撃は未だに忘れられない。当時、僕が某CDショップの店員で働いていた時に彼等がインストアライブを行った。その時、ロック&ポップス売り場を徘徊しては、目を爛々と輝かせ、色んなCDを聴き漁って、興味を示していたあの頃の姿。音楽をひたすらに吸収しようとしていた姿。改めて、2010年の配信限定リリースバージョンで聴いても、あの時の輝きが全く失われていないことに、感動。そんな僕の個人史もこのアルバムにはちらほらと、入れ込んでいるのであります。


- 19 ミンガスファンクラブ / SOIL&"PIMP"SESSIONS

 僕も敬愛するジャズ界の、ハード・バップの異端児ベーシスト、チャールズ・ミンガスの名曲を、爆音ジャズで、奏でる様はまさに奇天烈極まりない。
 このアルバムは邦楽を詰め込んだロックDJ MIX CD。故に、邦楽以外のカテゴリーを入れ込むことは不可能だった。その壁をなんとか乗り越えたく、彼等のこの1分強しかないナンバーで、なんとかぶち破りたかったので収録しました。短いけど、濃密な歴史と思いが込められていると感じてもらえれば本望です。


- 20 オトナノススメ / 怒髪天

 デス・ジャズから一転し、鳴らされるは、怒髪天のナンバーだ。世間的に、もう、おじさんになってしまった僕にとって、おじさんとしての大先輩である彼等のストレートな人生賛歌は、染みすぎるほど染み渡るのです。ここ数年、おじさんだけではなく、年齢層を選ばず、様々なリスナーに支持を受けて、さらなるスピードと多岐に渡る活動を行っている姿は、もう、頭が上がりません。
 大人は最高!青春続行!などなど。若造から見れば、何言ってんだよ、的な。そんな思いを歌詞に込めて歌いあげる事が出来るのは怒髪天だからこそ。それだからこそ、励みになる。とても頼りになる大先輩っす。


- 21 アフターダーク / ASIAN KUNG-FU GENERATION

 振り返ると、90年代の日本のロックはとても自由度が広かった。欧米の音楽に感化されて、オリジナリティ溢れる音楽を開陳する才能溢れるバンドが多々いたのだ。しかし、00年代になり、Jロックという、見えない解らないカテゴリーが構築されて、日本のロックは平坦化され希釈されてしまった。しかし、それを正面から受けとめて、デビュー以来、日本のロックバンドとして進化と深化を突き詰めながら、10年代も突き進むであろう期待を背負う意志を強く持つバンドは彼等しかいない。
 そんな彼等の代表曲の中でも、この「アフターダーク」に込められた意志と決意は、何よりも強い。“進め”という一言に、あらゆる思いを託して、音楽の素晴らしさを伝えたく、セレクトさせてもらったのであります。


- 22 青い空 / くるり

 DJたるもの、自分の中で、“この曲とこの曲を繋ぐことは俺の中での十八番である”的なものがあるはずで、それは、僕の中にも多々ありまして。その中でも、「アフターダーク」とこの「青い空」を繋いでプレイする頻度は高い。
 僕の持論で、“BPM、ビートが近い楽曲同士は、その楽曲が示すテーマや世界観をも共有していることが多い”というのがある。楽曲が持つ歌詞の意味合いも含めて、ギターの音色やベースラインの流れなども含めて、だ。それがこの2曲。そうやって聴いてもらえると、今までに無い発見を見いだしてくれるかもしれない。そんな期待をこのMIX CDのあらゆる場面で、あらゆる角度で、詰め込んでいるんですよ。実は。この2曲の繋がりだけじゃなくてね。それを感じてもらえれば、本望であります。


- 23 orange sunshine distortion / The Flickers

 今回のアルバムを創るにあたって、“ニューカマーバンドを収録したい!”という思いがあった。まだ世間一般的に認知度が狭いけれど、今後必ず活躍飛躍して行くであろうバンドの音楽を伝えたいという思い。その思いの結果、彼等のこの楽曲を収録するに至ったのです。全ての楽曲に言えることになるけど、このアルバムで初めて出会った音楽をきっかけとして、そのアーティストのことをより深く知ってもらえれば、もうそれは、DJ保坂としての本望を遙か超えるほどの喜びなんです。
 彼等の音楽は、アンダーグランドミュージックで終わらない。ビート感や楽曲が醸し出すダークネスと、心地よいポップなメロディの融合。和製ニュー・オーダーとも言えるような、音楽性も最高のバンドなんです。


- 24 Electric Surfin’ Go Go / POLYSICS

 今となっては当たり前のようになった、ロッキング・オン主催のフェスでのハヤシ氏のDJプレイ。初めて体感したときの衝撃度は凄かった。最高に上がるし、笑えるし、踊れるし。ほんと、いつの間にか名付けられた、“DJという名の不法集会”は、もうフェスにはかかせないアクトになった。それがあるからこそ、あったからこそ、僕の中でのPOLYSCS愛が膨らんだと言っても過言ではない。
 そんな思いも込めて、僕が彼等の曲を自らのMIX CDに収録するならば…これだ!これしかない!と。他に選択肢はなかった。これしかなかった。理由は沢山あるが、僕にとってのPOLYSICSはこの楽曲なんですよ。


- 25 Delight Slight Lightspeed / avengers in sci-fi

 “ロックンロールはイントロの10秒〜15秒を聴くだけで、それが名曲か名曲じゃないかが解る”ということを、以前先輩から教わったことがある。それが全てとは言わないが、確かに僕もそう思うのだ。その楽曲が名曲であるのならば、“どこを切り取って聴いても素晴らしいと思えるはずだ”という暴論さえも僕は吐いてしまうほどの極端な人間でもあるのです。そんな観点から行くと、もう、彼等のこの楽曲はイントロ部分で昇天でしょう。昇天ということは、名曲なのですよ。昇竜拳!の如くのイントロダクションで、はい、決まり!です。
 そこからサビに向かっていき、力強く突き進みながら、ブレイクダウンしたところで、ビートを敢えて落とし込んで、次なる楽曲へバトンを渡すように…。


- 26 回想する/ 木箱

 アルバムが終わりに近づくにつれて、タイトルが示す通り、「回想する」気分になる楽曲。昨今の音楽は、オーバー・ワークス、オーバー・プロデュースが多い楽曲が多い。そんな中、彼等の音楽は、音数が少ない。ということは、簡素なのか?チープなのか?と思うのだろうが、そんな簡略的な解釈では困る。音楽というのは、音が鳴っていない部分も含めて音楽なのだということを解って欲しい。その音の配置、並び、など。絶妙に構築されているからこそ、彼等の音楽はシンプルでありながらも奥深さを感じるのだ。故に、次なる楽曲への架け橋としてとても流麗に繋げることが可能に…。それも、ボーカルのブレスがポイントとなり、絶妙に繋げることが可能に…。


- 27 STROBOLIGHTS / スーパーカー

 僕がDJを、主に邦楽を主体とした選曲でDJをプレイし始めた頃からの、私的究極のアンセム。“愛”という言葉が幾重にも連なり続ける歌詞。『ALL IS LOVE IS ALL』というタイトルにぴたりと当てはまる、リリックなのです。主にシングルバージョンをスピンすることが多かった時期もあったけど、このアルバムバージョンの方が、時代と共にしっくり来ているのです。深遠さ、穏やかさ、流れるようなメロディーラインがシングルよりも優る。そして、このBPMは、ハウスのビート、BPM128に寄り添うような流れでもあり、邦楽に限らず、四つ打ちのトラックに絶妙に繋げることが可能なのです。さらに、後半に向けて、ボーカルが高音域に抜けて行き、終焉を打つように、ビートが名残惜しく刻み続けられるところが、素晴らしく。次なる最後の楽曲と繋げるに、とても絶妙な効果をもたらしてくれています。


- 28 アルクアラウンド / サカナクション

 最後にサカナクション。それも「アルクアラウンド」。意外に思われる人もいるかもしれないが、この楽曲を最後に繋ぎ込めたことで、『ALL IS LOVE IS ALL』というアルバムを、そのままリピートして聴いても、1曲目の「キャノンボール」になんの違和感もなく流れていくという。終わりなき螺旋状に響き渡る輪廻のようなアルバムにすることが可能になったのです。イントロをループさせて、「STROBOLIGHTS」のアウトロから繋ぎ込み、楽曲そのまま収録させて頂きました。
 この楽曲で歌われる決意というものを最後に持って来たのも、いや、結果的に持って来れたのも、このアルバムを象徴するかのような事実になった。“この地で (終わらせる)(今始まる)意味を探し求め また歩き始める”…。この歌詞に込められたものが、このアルバムの最後に届けることで、『ALL IS LOVE IS ALL』という作品には、始まりも終わりも無いということを証明することになった。
 故に、終わりにふさわしいと言えばふさわしい楽曲。でも、この曲から始まるアルバムと言えば、それにふさわしい楽曲であるのです。
(終わり)


 


 


セルフライナーノーツを書き終えて…。

 『ALL IS LOVE IS ALL』というこのアルバムは、「すべてが愛」「愛がすべて」という僕の造語にて名付けられたアルバムであります。改めてなんとも大仰なタイトルを付けたもんだなぁと、自ら思うけど、それは、保坂壮彦のオフィシャルサイトとして『ALL IS LOVE IS ALL』という名前を付けた時も、そう思ったことで…。実際、僕は、“愛とは何か?”と人に問われても、答えなんか出せません。だって、そんなことが解っていたら、こんなタイトルは付けるはずないですからね。当たり前のように、僕は、愛の全てを知らない。いや、少しは知っているのかもしれないが、それがどんなものなのか表現できない。ただ、愛というものがどれだけ大切な感情かということは、解る。どれだけ大きなものかということも解る。でも、それに対して言葉で伝える術を知らない。でも僕は、伝える術と、知る術を知っている。それが、音楽なのです。


 いろいろな表現者が様々なフォーマットで、人間の根源的なことを伝え続けて来ている。その中で、愛というものも、数え切れない人達が、数え切れない解釈で伝え続けてきている。その中で、僕は、音楽から愛を知った。別に、無理からに、説き伏せられた訳ではない。ただ音楽を通じて、愛というものの存在を初めて知ったのです。だからこそ、僕は、音楽を信じるし、愛を伝えてくれる音楽の魔法を信じ続けているのです。


 改めてこのような形で、全曲セルフライナーノーツを書いてみて、28曲、全部の曲に感化されて感情を揺さぶられた自分がいたことを再確認しました。そして、その思いを、『ALL IS LOVE IS ALL』というアルバムで、音楽で届ける前に、この場で言葉で伝えることが出来て良かったと思ってます。だけど、だけど、だけど、ね。言葉じゃないんだよね。音楽を説明するのに言葉は必要だけれども、不可欠ではない。音楽は音楽だから。それ以外の何物でも無いから。だから、この僕のセルフライナーノーツを読んでくれた人に感謝の意を届けつつも、とにかく、『ALL IS LOVE IS ALL』というアルバムに詰まった音楽を是非とも聴いてもらいたい。それがなければ始まらないから。


 聴いて下さい。聴いてくれれば、その時点から、僕のセルフライナーノーツは必要じゃなくなるのです。音楽は、リスナーのものです。作り手が産み出したものですが、届けられたリスナーが聴いて、そこから産まれる感情がその音楽の全てを決めるのです。敢えて、わがままを言わせてもらえれば、そこに何かしら、愛というものの欠片を感じてもらえれば僕は本望です。


 もうそれだけです。


 是非、聴いて下さい


 

(ブログ - 保坂壮彦日記にて、12月6日(火)から連載掲載したものをまとめました)